top  next




 暗闇が割れて、朝日が昇ってくる。
 午前五時。太陽が見え始めると、灯火(あかり)はそれから逃げるように布団へもぐりこんだ。光から目をそむけ、目を閉じる。
 それから一時間もすると、リビングのほうから誰かが起きだしてきた音がする。この部屋とは逆にカーテンを開ける音や、ニュースを映し出すテレビの音、朝食を準備する物音。
 だが、それらはすべて灯火には関係のないこと。灯火は今から、眠るのだから。
 けれど、ドアを一枚隔てた向こうで流れていく普通の生活は、簡単に切り離せるものではない。
(わたる)ー! そろそろ起きなさい! 学校に遅れるよ!」
「はいはい、今起きたー」
 一階から呼ばれて、階段を下りていく足音が聞こえる。
 学校も、朝食も、灯火には関係ない。
(私は普通ではない―――)
 それを感じながら布団の中で体を丸め、ただ早く時間が過ぎることを祈るしかない。
 長い時が経つのに、いまだ心から消えない恐怖がある。両親を亡くし、親戚の家で暮らし始めてもう二年。
 灯火から家族を奪った火事は、家族以外にもたくさんのものを奪った。顔に火傷の痕を残して美しかった容姿を汚し、醜い傷跡がきっかけで起こった差別は友達との関係も断ち切った。そして傷を見られることを恐れるあまり日の下に出ることさえできなくなってしまった。
 住む場所を失くした灯火を引き取った親戚は、恐怖は時間が解決すると繰り返し口にした。けれど、灯火が閉じこもって一年が過ぎると、すっかり社会復帰をあきらめた。そして二年が経つ今ではただの厄介者扱い。
 灯火に残された平穏は、弱い自分や現実から逃げるように眠ることだけだった。






top  next