会社の都合で少し都心から離れた場所に引っ越して、これから暮らす街を散策していた時だった。
賑やかな商店街を見つけて歩いていると、ころころと足元に松ぼっくりが転がってきて、なんとなくそれを拾い上げる。近くに松の木は見当たらないのに、いったいどこから……そう思って辺りを見てみると、小さなプレートが目に入った。商店街の隅っこにあった、小さな店。特に目立つ外装をしているわけではなく、商店街の一部のように溶け込んでいて、傍を通っても気付かずに通り過ぎてしまうような、そんな店だった。それが店だと分かったのも、「welcome」と書かれたプレートがかろうじて目に入ったからで。
プレートの右端に、松ぼっくりが飾り付けてある。おそらく転がってきたのはこれの対になる左側に飾ってあったのではないだろうか。
そう推測して、そっと店の戸を開けた。
さほど大きくはない店の中に、所狭しと置かれた物。シンプルなものから、子供受けしそうな可愛いものまで、幅広い世代に受けそうな雑貨や小物が並べられていた。
とりあえず奥へ進んでみると、会計をするらしいレジには誰もいない……ように見えた。実際にはカウンターの下で何やら作業をしている人がいたのだが。
「……あの、すみません」
声をかけると、もぞもぞと動いて店員らしき人が顔を上げる。
目が合って…少し驚いた。赤みを帯びた薄茶の長髪に、大きな瞳。どう見ても十代前半の可愛らしい少女だった。のだけれど、
「ん? 何か用?」
なぜかものすごくタメ語で話された。
ただの子供の無知な対応にもとれたが、少し違和感がある。けれどその違和感の正体も不確かで、とりあえず用件を切り出してみた。
「これ、外に落ちてたけど、プレートの飾りじゃないか?」
彼女に合わせて言葉づかいを崩し、松ぼっくりを差し出すと彼女は驚いたように目を見開いた。
「あ、ホントだ。わざわざ持ってきてくれたの? ありがとう」
そう言ってニコリと笑い、対応もそこそこに店の入り口に向かい、プレートを外して戻ってくる。
そしてカウンターの下からいろいろ用具を取り出し、その場で修理を始めた。その手つきはとても手馴れていて、子供の作業とは思えない。
そこでようやく、違和感の正体と答えがわかった。
あまりにも幼い容姿にかかわらず遠慮ない話し方に違和感があった。けれど作業の様子や対応慣れした態度から推測するに、彼女は外見が幼いだけでそれなりに歳はいっているのかもしれない、ということ。それと、笑顔がどこか寂しげだということも。
「はい、一丁上がり!」
手際よく飾りを直して、少女はプレートを戻しに行く。満足気に帰ってきた後、彼女はごく当たり前のようにこんな言葉を口にした。
「で、他に何か用ですか? 保護者はどこ? という問いは受け付けておりませーん」
「――っく」
さらりと言ってのけた少女に、思わず吹き出す。
その反応も当然、というようにこちらを見ている少女に、笑いながら言葉を返す。
「そんなこと言わなくても、君が子供だとは思ってないよ、オーナーさん?」
「……え…」
そこでようやく、彼女の表情に変化があった。
本気で驚いたように目を瞬く少女を見て、なんとなく事情は理解できた。
「苦労してるんだな。自分がこの店を営業してるって言っても信じてもらえないんだろう? 上等文句があるなんて、間違いも一度や二度ではないらしいな。可愛さもここまで来ると罪だなぁ。…あ、ところで本当はいくつなの?」
それが、彼女との出会いだった。
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