はじめてプレゼント



 そして時間だけが過ぎ、商店街も静かになる。
 店の前の看板を取り下げて、プレートも「close」にして、彼女は店の中に戻ってきた。
 ふーっと大げさなため息をつく。
「あー、今年もダメだったかー。毎年こうなのよ。店にいても、みんなもらってくれるどころかくれちゃうんだから」
 元気を装ってはいるが、どこか諦めたような声だった。
 嫌になっちゃう、と呟きながら、増えたお菓子を棚にばらまく。
「やっぱり……もう少し大人にならないとだめだね」
 ぽつりとこぼれた言葉は、いつもの口癖と同じ。けれど、それが唯一の望みなのだろう。
「そんなにお菓子をあげたいのか?」
 そう言って彼女に近づくと、まぁね、と彼女は肩をすくめる。
「ちょっとした意地なんだけど。みんなが可愛い可愛いって物くれるから、私誰かにプレゼントあげたことないのよね」
「じゃあ、俺がもらってやるよ」
「え……?」
 きょとんと振り返った彼女をひょいっと抱き上げて、カウンターに座らせた。
「ちなみに、何をくれるんだ?」
「あ…あんたにあげるお菓子なんてないわよ!」
 おどけたように問うと、彼女は憤慨したように答えてツンッとそっぽを向く。必死で冷静を装おうとしているのが見て取れて、さらに挑発するように笑みを浮かべる。
「そうだな、お菓子はいらない」
「だ、第一、なんであんたがほしがるのよ! 大人はあげる側じゃないの!?」
「そう固いこと言うなって。お前は誰かに何かをあげたいんだろう? だから俺がもらってやる。ただし、俺もお前も子供じゃないんだ。大人に見合ったプレゼントがほしいね」
 そう言うと、彼女は求められているものが本気でわからないらしく、ふてくされたような顔で見上げてきた。
「まぁあげてもいいけど……プレゼントって、何がほしいの?」
 大人向けの商品もあるけど、と呟く彼女に、さりげなく顔を近づける。
 さすがに驚いたらしく、咄嗟にのけぞった少女の腕をつかんで逃げられないように捕まえ、にやりと笑う。
「お前」
「……え?」
「だから、お前自身だよ」
「わ…たし……?」
 ぽつりと小声で確かめるように口にして、その内容を理解した少女は狼狽して上ずった声で反論してくる。
「な、何言ってるの!? え、だって私、こんな子供だし、ちっちゃいし、あなたみたいな大人となんて……」
「でも、お前はもう成人してる。年齢的には問題ないだろう。大人になりたいって言っていたのは見かけだけか? 心も大人になりたいんだろう?」
「そ、そうだけど……」
「だったら俺が、大人の心を教えてやるよ」
 互いの息がかかるほどまで顔を近づけ、トドメの問いを投げかける。
「プレゼント、あげてもいいって言ったよな? あれは嘘か?」
「え、えっと……」
「あぁ、そうか。今日はハロウィンだもんな。それなら―――」
 あたふたしている彼女が答える前に、そっとキスを落とす。
「いたずらされる方が好みか?」
「―――っ! いじわる!」
 瞬く間に首まで真っ赤にした彼女が、涙目になって小さな手で肩を叩いてくる。こらえきれずに泣き出して、けれど逃げるどころか抱き着いてきた。小さな体を軽く抱きとめる。
 それきり離れようとしないので、その涙は嬉しいからだと解釈し、その日は彼女を自宅までお持ち帰りしたのだった。



 おわり♪  





〜Happy Halloween〜



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