それから彼女は手芸に励み、日が経つにつれて店はハロウィン仕様になっていった。
そして迎えた10月31日の夜。
商店街ではハロウィンに乗じて店ごとにイベントをやっているようで、彼女の店に行ってみると『ハロウィンイベントやってます!』とでかい文字で書かれた看板があった。
そっと入り口をくぐる。
「あ、いらっしゃ……って、あんたかぁ」
ぱっと笑顔で振り返った彼女は、服装もなんとなくハロウィン仕様だった。服のあちこちにかぼちゃや蝙蝠のワッペンがつけてある。
「なんだよ、その反応。会社帰りに寄ってやったのに」
「はいはい、お疲れ様。でも今日は大人がメインじゃないんですよー」
ツンとした態度でむくれる彼女を見ながら、カウンターにもたれかかる。よほど楽しみにしていたのか、彼女は入り口付近でそわそわしていた。
はたして客は来るのか、と様子を見ていると、近くで女の子の声がした。
「あ、見て。ハロウィンイベントやってます、だって」
「えー、こんなところにお店あったの? 嘘じゃない?」
「とりあえず入ってみようよー」
そんな会話が聞こえてきて、きた! と言いたげに彼女の顔が輝く。
そして、ゆっくりと入口の戸が開いた。
「いらっしゃいませ!」
にっこりと彼女が笑顔で迎える。すると、一瞬キョトンとしていた客の少女たちは、賑やかに笑い出した。
「可愛いー! 仮装してるのー?」
「ほら、やっぱりここはもらう側だって」
「だよね。はい、お菓子あげるー」
当然のようにそう言って、少女たちはバイバイと手を振って行ってしまう。
その流れがあまりにも自然で、彼女は言葉ひとつ言わなかった。
それから何度か客は来たものの皆が似たような反応で、彼女からお菓子をもらおうとする人はいなかった。
|